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吉野家にて

こないだ9月23日の話です。
その日、福岡ダイエーホークスは、夕方からの近鉄戦の勝敗如何でリーグ優勝が決定するという局面にいました。無論ボクは優勝決定を望んでいたので、牛を喰らうという意味で近所の吉野家へ行きました。
バカらしいのですが本気でそうしたのです。

ちょこっとコーコク

ボクは昔から非常に吉野家が好きで、逆言えば、吉野家以外の牛丼を口に運ぶことはほとんどしません。たまには松屋も...なんてことは絶対にないのです。松屋なら松屋で全く別のものを食べるのです。もう、牛丼に関しては吉野家原理主義者とかいわれても抵抗のない境地にいると言ってもいいでしょう。

とりあえずボクの理想とする吉野家のルーティンとしては、まず店に入り、店内で一番動きのいい店員の前の席を陣取ります。そしてシッダンするかしないかのうちに「大盛りと卵」と告げるのです。この際に通ぶって「汁ダク」だとかは言いません。もう「ごちそうさま」まで無駄な言葉は発しないのです。ちなみに、もし何かしらリクエストをするとしたら、ボクは迷わず「ネギダク」でしょう。しかし特別にそれも告げることはありません。ボクが期待しているのはネギの量ということ以上に、ネギの質であるからです。吉野家が客に対して出すネギの許容範囲ギリギリで、生に近いものを欲しているのです。中心が硬いくらいのが上等なのです。ちなみにネギがフレッシュな店はよく回転しているということも言えるので、往々にしてうまい可能性すら導き出せます。

さて、まず生卵が出されます。
ボクは近年、生卵の白い軸が嫌いになってしまったので、まずはそれを黄身から分断させる作業に入ります。そして、その外した軸を巻き込まないように、箸で軽くシェイクします。この際、丹念にまぜる人もいるかもしれませんが、ボクはホント2、3回かき回す程度です。
牛丼登場。すぐさま生卵を流し込みます。この時にさきほど分断しておいた卵の軸を小皿に残すようにします。それが無事成功すると、今度は紅しょうが。これは大盛り1.5〜2杯くらいの目安です。見た感じかなり乗っているでしょう。しかし、これは命なのです。そして最後に七味です。吉野家の七味はふざけているのかと思うくらい辛くないものなので、ふりかけの如くたっぷりとかけます。

そうやってようやく食すわけです。そして、どんぶり内に崖を作りながら、半分くらいまで食べたら、もう一度紅しょうが&七味を補充します。完食への折り返し地点のようなものですね。ちなみに、ボクは食べる際にどんぶりには口は付けません。いつからそうしているかはわかりませんが、これは絶対的です。米の最後の一粒まで箸でいただいています。
そして、食べ終わったら速やかに退散。
これがボクの中での正式です。

さて、話が別の方向へ向かってしまいましたが、とにかく、そんないつもの意識でボクは吉野家にいました。
まだそんなに混雑していないタイミングのようで、店内は鈍重な感じの若い娘が1人、奥で中年男の牛丼メーカーが1人、という体制でした。

と、そこへある初老の男が入店してきました。
70代くらいでしょうか、おそらく周囲からは「おじいちゃん」と呼ばれていることでしょう。顔には非常に深いシワが幾本も刻まれています。
その老人、入店して以降、しきりに壁のメニューを見ています。かなり迷っている様子。この時点で老人は吉野家ビギナーであることが推測されます。若娘の店員は老人にお茶を出しながら「ご注文お決まりですか」と訊ねます。
すると老人、
「カレーある?」
ちょっと笑いそうになりました。「吉野家初段」という感じです。おそらく松屋あたりと混同しているのでしょう。しかし、責めるべきことでもありません。本当に驚くべきことは、この直後に若娘の店員が言ったセリフです。
「いえ、鮭ならあります」
ボクの箸は止まりました。どうしてカレーを求める客に鮭を薦めようとするのか。この時ボクの口元はごまかしようのないくらい緩みました。
老人はやや迷った様子で、
「じゃあ・・・牛丼ください」
「並でよろしいですか」
「へ?」
「大きさです」
「あぁ、並でいいです」
「はーい」

結局カレーを求めていた老人は牛丼の並盛りにしたようです。確かにカレーからの妥協は鮭よりも牛であるのは自然なような気がします。
やがて老人の元に牛丼が出されます。老人は牛丼を受け取りながら、少し微笑んで若娘に言うのです。「カレーあると思ってたよ」
娘も優しく微笑み返し。

そ、そうか!!
この瞬間、ボクの中で霧のかかった部分がスッキリは晴れることになります。このとんちんかんなやりとり、その元凶の首根っこを捕らえました。
よく聞けば老人は「カレイ」と言っているのです。
ボクにもそう聞こえました。老人は確かに「カレイあると思ったよ」と言ったかもしれません。無論そう言ってた方がおもしろいでしょう。しかしこれ、勘違いするようなレベルとも思えないのです。イントネーションは「カレー」なのですから。
娘はなぜに自分の働いてる牛丼屋に、「カレイ」を求めてくる客が来店し得ると考えるのでしょう。いや、もちろん、本当に老人が「カレイの煮付け定食」なんかを求めていた可能性もゼロではありませんが、まずは「カレーだろうな」と想像するのが自然な思考なのではないでしょうか。
おかしくも歯痒い一件でした。

しかし娘、「カレイ」の代わりに「鮭」を薦めるとは、優しい心を持っているのだな。

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コメント(1)

ダメだ 俺ならたぶん 食ってた牛丼吹き出してると思う   だってシャケだよ

ベンジャミン竹本 | 2006年9月 6日 02:37 |返信

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