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運を蒔くオヤジ

ちょっと有楽町に行ったので、ついでに「宝くじ」買ってきました。

ちょこっとコーコク

例の日本一「出る」という売り場です。毎年テレビでも流れていますのでご存知かとも思いますが、この売り場は実によく並んでいます。しかも売り場内であればどこでもいいというわけではなく、1番〜8番くらいまである窓口でも圧倒的に「1番」に人気集中しています。他はガラガラなのに、ここだけは長蛇の列。「ここから30分待ち」なんて書かれたプレート持った整備員まで出動しています。

せっかくですからその1番窓口に並んでみました。ま、年末までの「夢」ですから、こうやって並びとおすことで得られる達成感もクジのお代に含まれているのですからね。

で、しばし行列に身を任せていると、ふと傍らのベンチに非常に怪しい輝きを放つ人物を発見しました。
グレーのスラックスにグレーのダウン。それ以外特徴ないくらい「普通のおっさん」です。あまり清潔な種類の方ではないかもしれません。しかし「何」か心を誘う怪しさがあります。
そのおっさん、なんとなくボクら並ぶ群れをチラリチラリと見て、いかにも挙動不審。
と、突然、非常に小さめの声でこう言うのです。
「運わけてやるよ」
は? 耳を疑いました。
ボクを含め、そのセリフが聞こえたであろう一群の中から妙なざわめきが起こりました。
おっさん矢継ぎ早に次のセリフを言いながら、何かをカバンから取り出します。
「オレはこうやって三億円当たってるんだ」
そしてボクらに見せつけたのは、そのおっさんが「積み上げられた三億円らしき札束の前で、軽くガッツポーズをとっている写真」。A3くらいの大きめのプラケースに引き伸ばした写真が挟んであり、裏面にも別のショットの写真がいるようです。
衝撃的です。
ボクの真っ先に出てしまった言葉は「ホントかよ」
いや、おそらくその場にいたほとんどが半信半疑だったことでしょう。とてもそんな風には見えないのです。三億円ともなれば、もう少しその潤いが衣類に出てしまうものではないかと。あまりにも全身質素です。それに第一、仮にそのおっさんが三億円当たったとしても、どうやってその運をくれようというのでしょう。

ふと、宝くじを買い終えたひとりの女性がそのおっさんの近くに来ます。半分モジモジした様子でいると、おっさん手招き。そして、その女性の買った宝くじの束を受け取ると、くじ束の角を三億円写真のプラケースに「シャーッ、シャーッ」という感じに擦り付けるのです。プラケースの裏面にもちゃんと「シャーッ、シャーッ」
な、なんだこの儀式は...。
おっさんは女性に宝くじを返すと、すばやく写真をカバンに戻し、女性をおっぱらうように手を振るのです。
妙な無愛想さがまた疑わせます。まさか本物?

驚くことに、見ていると次から次へとそのおっさんの御利益を授かろうと、「シャーッ、シャーッ」やってもらいに来るのです。
やがてボクは思いました。
『もしかしたら今ボクの目の前にいるのは宝くじの神様なのでは...』

手際よく儀式を行っていくうちに、ある男がおっさんにコインを差し出しました。
オッサンそれをかなりスピーディに受領。いくらかはわかりませんが、確かに「金」です。
な、なんだ商売か!?
そう思って注意深く観察を続けると、どうも8割くらいの人はノーマネーでフィニッシュしてますが、ごくたまにチップを払ってる人がいます。賽銭感覚なのでしょうが、三億円当たったような人が小銭受け取ってるというのもちょっと首を傾げざるを得ませんよね。しかも、ある夫婦が渡した500円硬貨の際、それまでほとんど表情を緩めなかったおっさんがニタリとしました。しかもその緩み具合よりも驚かされたのは前歯の一部がないこと。こりゃウソ者か。

さて、それでボクはどうしたかと言いますと、当然「シャーッ、シャーッ」やってもらいました。このおっさんが三億円当たっていようがいまいが、あの堂々たる佇まいはそれだけですがりたくなるものがあります。これまで「シャーッ、シャーッ」やってもらった人が三億円当たったのが、やっぱりハズレたのかは知りませんが、ハズレた時に「あぁあの時擦ってもらえば...」という後悔はしたくありません。こういう楽しみも含めての宝くじです。

よく、「宝くじ当たったらどうする?」という話になり、それはそれで楽しい時間なのですが、ボクはこの日から宝くじが当たってしまった場合の新しい夢が生まれました。
もし、来年の年末、この有楽町の宝くじ売り場で、このおっさんよりも若くていい男が同じようなことをやっていたら、話しかけてみてください。それはきっとボクですから。

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