三年G組クロニクル 第1話「三G前夜」
これから連載するこの作品は、オリジナルはもう10年近く前に書いたものです。
米林ジャーナルの準備をはじめる前くらいだったでしょうか。
すごくデタラメな内容のお話です。
もっとマトモなものを書く志もあったのですが、根気がなく、結局は小セクションで区切られたコレだけが形として残ってます。
とにかく「漫画みたいな作文」つまりは「漫文」というようなノリで書いたので、笑わせることだけが命題でした。
結果できたコレは、どういったところで評価してもらえばいいのか分からず、恐ろしいほど真面目な賞に応募し、おもっきりスルーされ、そしてハードディスクの隅へ追いやられたのです。
しかし、今読み返しても、基本的にボクの書きそうな感じという意味でもブレがありません。なので、ここに訪問してくれる方々ならばオモシロがってくれるのではないかと思い、公開することにしました。
とりあえず、気に入らないところを色々とリライトしつつ、不評ならフェードアウトしちゃえばいいかって感じです。
第1話「三G前夜」
春休み最後の日、親友の衣笠三郎くんが我が家に遊びに来ていた。
新しい学年前の休みともなると、もはや宿題らしいものはほとんどない。
とにかくノンビリと過ごしていた。
もともとは私の部屋で、衣笠くんが買ったばかりというゲームソフトの対戦を試す予定だったのだが、私がコントローラーを1つしか所持していなかったことが判明してしまい、結局はゲームそここそに雑談タイムへとなっていったのだ。
そういう展開に対しても衣笠くんはこれといってつまらなそうにはしない。
衣笠くんは私の愛用ベットに遠慮なく大の字になると、天井に向かってポツリ言った。
「それにしても、いよいよ明日学校だねぇ」
私もうなづいて答えた。
「うん。もう中学三年生だよ」
衣笠くんは少し眉毛を寄せて、
「ついに受験なんだね」
と言った。
私と衣笠三郎くんとは尾奈川第二中学に進学して初めてのクラス、つまり一年G組の時に一緒だった。
それ以来の仲良しである。
二年生の時は残念ながら別々のクラスだったが、親交に変化はない。
小太りでおっとりした雰囲気の彼の家は自営業。商店街でも評判の豆腐店だ。一方、私の家は絵に描いたような普通のサラリーマン家庭。面白味もなし。
衣笠くんの家とは、家族構成、食事の流儀、トイレの形式など、いろいろと違う。つまりは全く違う環境で育ったのだが、不思議と相性はとても良い。感動と味覚のラインが比較的近いというのがその主な理由なのだろうが、何よりも二人共おばあちゃん子だという事実も何らかの要素になっているような気がしてならない。
私は言った。
「一緒だといいね」
「え?」
「クラスだよ」
「あぁ、ホントだよねぇ。ボクもそう思ってたんだよ」
明日からいよいよ三年生になるのだ。そして新学年を迎えるにあたって、なんとなく楽しみな「クラス替え」が行われる。
いや、『なんとなく』ではない。『かなり』だ。
私は明日のクラス替えには相当な期待を寄せていた。クラスのその顔ぶれによって登校が快適になるか忍耐になるのかが決まると言っても言い過ぎではない。
そこには生徒の数だけドラマがある。
私の願いはハッキリしている。
まず、とにかく今度こそ衣笠三郎くんと同じクラスになりたい。
他にも、藤田くんや染谷くんや大梶くん、中山くんなど一緒になりたい者はたくさんいるが、あまり欲張って、希望が分散するのはよくない。
とりあえず衣笠くんだけは押えたい。
それから、いわゆる「不良」とカテゴライズされている一派や、無駄口で授業妨害を楽しむような者たちと同じクラスにはなりたくない。
具体的には、清本吉也と同じクラスは回避したいのだ。
彼のように、態度風貌で周囲を威嚇したり、何かにつけ反抗をしてみたりする人物には関わりを持ちたくない。
そのあたりに関しては衣笠くんも同意見のようだ。
「確かに、清本くんとかって出席してても欠席してても心配な感じがあるよねぇ」
私は少し興奮して、
「ボクなんかここ一年一緒のクラスだよ。もう散々だよ。もういいよ」
と少し身勝手なセリフを放ってしまった。
この二年G組時代、何故に私が彼の夏休み、冬休みの宿題を請け負わなくてはならなかったのか未だ明確な答えが出ていない。
清本版の宿題を作り上げる為、私がどれだけ無駄な時間を使ったことか。
発見は、私の左手での筆跡の方が、彼の利き手の筆跡より解読に適しているという一点のみだ。
さらなる回避希望の理由として、清本の教室で『激しい貧乏揺すり』というがある。
これがまた耐え難いのだ。
一度でも同じクラスになったものでないとこの苦痛は理解できないだろう。
一般的な貧乏揺すりよりも振り幅が大きく、生み出すノイズも大きい。年度末の道路工事を想起させるほどのその振動と音は、並の集中力では無視することはできない。
それでいて誰ひとりとして清本本人に注意できないのだ。清本に注意をすること自体が困難な上、それを指すのに『貧乏揺すり』と表現しなければならない。下手を打つと「オレが貧乏だってのか!!」と逆上させてしまう恐れがある。
非常にナーバスな問題だ。
結局のところ、気にならないふりをしつつ授業を受けなくてはならないのだ。
私は、清本と一緒だったこの一年を終えたことが、例えるなら「兵役を終えた」みたいな感覚でもあったので、どことなく楽な気持ちで三年生の新クラスについて考えていた。
不意に衣笠くんが言った。
「じゃあさ、担任の先生は誰がいい?」
この点も希望はないことはない。
一年二年とG組だったので、担任もずっと同じく国語の黒島直人氏だった。
黒島氏は風貌からして個性的だ。
真っ黒い髪の毛を肩の辺りまで伸ばし、バックリと真ん中で二つに分けている。そのロングヘアーに囲われている極めて男っぽい顔立ちは、かなりむさ苦しいものがある。
某テレビ番組の熱血教師を模倣しているのだという話をよく聞くが、私はテレビをほとんど見ない人間なので、その辺りはよくわからない。
が、外見から受ける印象はともかく、教師としては特別嫌いではない。いい意味での放任主義で、生徒にも媚びてない。
しかし二年間も同じ担任だと少々飽きてきているのも事実である。
「まぁ、違う先生のクラスになってみたい気持ちもあるけど、基本的には誰でもいいかな」
すると衣笠くんは、
「そうだね。やっぱりクラスメイトの顔ぶれの方が重要だよね」
私はウンウンうなづいていた。
やがて、雑談も落ち着いた頃、衣笠くんは床屋に行くからと帰っていった。
ゲームソフトを忘れていったから、一人で遊ぼうかと思いつつも、またなんとなく新クラスのことを考え出してしまい、ソワソワがおさまらない。
中学三年生は高校受験を常に念頭に置くべきなのである。
やはりここは、共に刺激し合い学力向上につながるであろう友人・・・そう、衣笠三郎くんのような人物と同じクラスにしてくれるというのが、学校側ができる愛情深い受験対策というものではなかろうか。
そんなことを繰り返し考え、夜になっていった。
新学期初日は体育館での始業式で始まった。
メガネに七三という以外特別な特徴のない横溝校長は、声だけは個性がある。
独特のダミ声が言うにはこうである。
新三年生に限っては、いままで通りの無邪気で愉快な学園生活だけでは過酷な受験戦争を乗り越えられませんよ。
去年も一昨年も校長は同じような事を言っていたのだろう。しかし、今年に限っては安易には聞き流せないものがある。
確かに校内も、この春休みを挟んだだけで、それまでの姿から一変したように思える。実は進学校だったとでも言いたげに規律が高まってみえる。
この間まで友達のように冗談を言い合った若き体育教師。
やさしい言葉と明るい笑顔の英語教師。
昨夜のテレビの話を持ち出しては生徒との間合いを計るサエない理科第二分野教師。
はたまた、ダジャレ好きな用務員のおじさん。
皆どこかよそよそしい。
そんな中でも私自身が己の目を疑ったのは、一年二年の時の担任の黒島氏の髪型だった。周囲の冷笑に負けることなく伸ばしけていたあのロングヘアーを、見事バッサリと切り落としてきたのだ。
あれだけ気に入っていた髪型をも変えさせたのは、やはり『三年の新学期』ということなのか。
初めてあらわになった黒島氏の両耳は図々しいほど立派な福耳で、くしくも教師の威厳というものを感じさせるほどの迫力があった。
私は改めて自覚した。
この尾奈川第二中学校にも、その新学期然とした新学期が確実に訪れていたのだ。
長い始業式が終わると、いよいよクラス替え発表となる。
正面玄関脇の掲示板に新しいクラス分けの結果が掲示されている。
私はほどよい期待感を楽しみながら掲示板に向かった。
そして無数の生徒の群れの隙間から自分の名前を探してみた。
"あった!"
名前はすんなり見つかった。しかし私はその感想を押し殺して、そのまま自分以外のクラスメイトの名前をチェックし続けた。
ふと、こんなことを思い出した。
ミミズにおしっこをかけると、ちんちんが腫れるという話がある。
どういう意味の迷信かは知らないが、信じてはいない。
これまでミミズにおしっこをかけたことがなかったのは、迷信を恐れて実行しなかったのではなく、単にそういう機会に恵まれなかったからだ。
しかしこの春休みのある日、出先でたまたま立ち放尿に興じていると、一匹の生意気そうなミミズと遭遇してしまった。私はほんの悪戯心から彼に目一杯の尿を浴びせてしまったのだ。
無論、その直後も現在も私の生殖器に聞くような非科学的な現象は起こってない。
しかし確実に呪いはかかっていたのだ。
それしか思い当たらない。
私は精進していたつもりだった。
にもかかわらず、私のささやかな願いは一つとして成就しなかったのだ。
衣笠豆腐店三男坊、衣笠三郎君との同じクラスの夢は一瞬にしてついえ、最も同級生になりたくなかった清本吉也とともに、またしても黒島直人氏が受け持つ『三年G組』となった。
ちょうど清本が私の背後に来ていた。
春休み中伸ばしていたのだろうか、清本の顎にはうっすらとしたヒゲがへばり付いていた。
そして新調した学生服。詳しいことは知らないが、彼のことだからそれが不良のパフォーマンスに適したデザインであることは察しがつく。
私の失望は無表情となって表れていた。
清本は私を見つけ言った。
「なんだ、サロンパ、またお前と一緒か!」
私は皆から『サロンパ』と呼ばれていた。
(つづく)